高山良政
日本の医師養成課程に在籍する筆者は、2025年4月から9月までインド共和国ケララ州コジコードに位置する緩和ケア専門病院Institute of Palliative MedicineにObservershipとして在籍した。本発表では同施設での滞在経験をもとに、医学生としての気づきを記述するとともに、民俗学・文化人類学的視点から考察を行った。
ケララ州は人口約3500万人を有し、マラヤーラム語を公用語とし、ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教が主に信仰されている。同施設は1993年に設立され、外来・入院・在宅・リハビリを統合的に提供する緩和ケアの拠点であり、医療サービスは寄付によって賄われている。
滞在中、筆者は言語の壁に直面した。日常的な意思疎通は英語で行われる一方、診療場面ではマラヤーラム語が用いられ、医師は英語で記録する。筆者は双方の理解が不十分であったため、十分なコミュニケーションが困難となり、疎外感や焦燥感を経験した。
また、入院患者のケアでは家族が中心的役割を担い、食事や排泄、体位変換などの日常的介助を行っていた。これは日本の看護体制とは異なり、看護師不足や家族構造が背景にあると考えられた。さらに、手食を中心とした食文化は、米の性質や食器の形状と関連していることが示唆された。
以上より、医療や社会のあり方は地域の文化的・社会的背景と密接に関係していると考えられる。そのことを認識した上で、調査を続けていきたい。
2025年11月例会 - 2025.11.9 鹿児島県歴史・美術センター黎明館