半島文化2000年あとがき |鹿児島民俗ガイド < 南さつま半島文化HOME|
〔2000.12.1〕
<まちの名声をあげるには> まちの名前を全国の人に知ってもらうにはいろいろな方法があると思います。こうしてホームページで伝えることもできますし,大きなイベントをして注目をあびることもひとつの手です。けれども一過性でなく,永くその土地のことを覚えてもらうために,こんなのはどうでしょう。
@地図や旅行雑誌に正しく・楽しく載せてもらう
地図は全国の書店に並びます。「るるぶ」や「マップル」も,どこの本屋さんにもあります。けれども今の道路地図などみていると,あんがい出鱈目です。お客さんが喜ぶような新しい施設はいつまでたっても載りませんし。どうすればちゃんと掲載してもらえるのか知りませんが,地方新聞に一回載ってよろこんでいるよりよっぽど伝達量が多いと思います。
A教科書に載せてもらう
教科書にどれだけ鹿児島のことが載っているか地元の人は知っていますか。おそらく「鹿児島」「桜島」「枕崎」「鹿屋」「笠野原台地」それにシラス台地という言葉ぐらいです。旅行の好きな人は「指宿」や「知覧」「霧島」なんかも知っているかもしれません。それから今は「屋久島」が話題です。万之瀬川も吹上浜ももちろん加世田も教科書には出てこないのです。教科書に出てくるためには産業や自然に特色がないといけませんので,少しむずかしいかもしれませんが。
ついでにいうと,インターチェンジやサービスエリアも,ドライバーにはそこで降りなくても覚えられるものです。もちろん地図にも載るし。駅もそうですが。 (半島文化Vol.4おわり)
加世田市南部久木野校区で確認された春ノ山遺跡が11月18・19日の両日公開された。
今から約二万年前の旧石器時代後期の地層から,石蒸料理に使ったと思われる礫群(れきぐん。たくさんの石を1か所に集めた施設)やナイフ型石器と呼ばれるものが見つかっている。
加世田市内で見つかった遺跡の中では最も古いものだが,県内にはこうした礫群のある遺跡は7ヵ所あるとのこと。
事前にマスコミに取り上げられることも少なく,栫ノ原遺跡や志風頭遺跡の説明会のような混雑はなかった。最古とか最大級などといわれない遺跡は,このようにひっそりと公開されるものなのだなあと感じた。それでも市内最古,地元の小学校で使われる社会科副読書や市史は塗り替えられることになる。
評価はこれからだが,久しぶりに発掘現場を見て,やはりわくわくして帰ってきたところだ。
11月5日前期旧石器時代の遺跡として注目されている宮城県の上高森遺跡の石器が,調査者によって埋められたものであることが報道された。
先日鹿児島の書店で購入した新刊,岡村道雄著『日本の歴史01 縄文の生活誌』(講談社)では,冒頭にこの遺跡について紹介されている。もちろん世界的な発見と評価して載せられているものだが,今となってはその小見出し「なぜ,石器はうめられたのか」を,残念ながら笑わざるを得ない。
さて,私は在野で民俗の勉強を続けているものだが,今回の事件もアマチュアから出発した熱心な研究家の起こしたものだそうだ。幸いにも私の場合は学生時代に一通り民俗研究の基礎を学んでいるので,剽窃(論文などの盗用)や調査に臨む姿勢については心得ているつもりだ。
ただ,忘れられた地方の一調査者が世の中に一気に評価されようとすれば,考古学ではこんな方法になるのだろうなあと,少し気持ちがわかるような気もする。今の考古学の状況を地方から本やテレビ情報だけで眺めていると,昔民俗学がそうであったように,柳田國男一人,あるいは中央の学者だけが”研究”を行い,地方にいる者は一調査者でしかないという現象がいまだに続いているのではないだろうか。
一方,民俗学の場合,調査報告にチェック機能がないのが弱点なのかもしれない。伝承地ではだれもがしっているようなことを,他の集落と比較して結論を出すのが民俗のオーソドックスな方法だが,その報告書には報告者の主観・史観というものが少なからず入っているだろうし,正しい伝承として記録していくためには,他の研究者による側面再調査や,伝承者自体によるチェックなども必要かもしれない。今年地元の調査報告を,地元で行ったら―自分の集落が報告されないのはなぜか―という意見が出された。なるほど私の勉強不足である。貴重なもの,おもしろいものだけをピックアップしたつもりはないのだが,結果的にそのような主観が入っていたのだ。
評価は後世に任せて,ぼつぼつ調査と勉強を続けていくことにしたいものだ。
※11月25日に書店で確認したところ,岡村道雄著『日本の歴史01 縄文の生活誌』(講談社)は,11月8日付けのコメントを挟みこんで現在販売されている。
〔2000.11.1〕
<国語辞典の選び方> 10年ほど前,横組みの国語辞典が登場し,左利きの私は重宝している。私が国語辞典を選ぶときはまず著者・編者が確かなものか,次に新しいことばがどれだけ載っているか,最後に興味のある分野の用語がどのように扱われているかという点をみる。たとえば今年はIT(アイティー・情報技術)という語が載っているか,ちょっと前ならサリンなども昔の辞典には出てこないことばだった。新しいことばにこだわる理由は,古語や文語というものは,ちょっとかさばる広辞苑や国語大辞典に的確に表現されているからだ。興味のある分野の語では民俗学では「常民」という用語。人名まで載る辞書の場合には「宮本常一」を引いてみる。
とりあえず,10数冊ある蔵書から個人的にお勧めの国語辞典は次の3つ。
@デイリーコンサイス国語辞典(三省堂) ポケット版の辞典だが,標準表記を示しており,漢字で書くか,かなで書くか悩んだときなど役に立つ。この版組みではこれが一番読みやすい色使いになっている。ヨコ組み。
A集英社国語辞典 B6版の普通の辞書だが,編者が信用でき,付録に方言の話なども。ヨコ組み。
B類語国語辞典(角川書店) 国語辞典と名がついているが,日本語の語彙を体系化した類語辞典。類語辞典の中ではこれが一番使いやすいのでは。 (半島文化Vol.3おわり)
○1993.2.25 第1版第1刷 2000.9.18 第2版第1刷
○編集委員 森岡健二・徳川宗賢・川端善明・中村 明・星野晃一
○2094ページ。B6横組み・縦組みと机上版横組み・縦組みの4種類がある。
○定価3500円(B6版)
この辞書の特色はまず英和辞典のような横組みになっている点である。最近では横組みの国語辞典が多くなったが,初版当時は画期的な体裁で,こんなに読みやすい国語辞典ができるのかと,感嘆した。
この辞書を手に取った理由には,編者に言語地理学の徳川宗賢,民俗学分野の専門用語に宮田 登,日本史に児玉幸多など,このような中辞典では類書に見ない優秀な布陣をそろえていることなどがある。これならミニ百科事典としても信用におけると思われた。もう一つの特色は付録に森岡「日本語の語彙の体系と歴史」,徳川「日本の方言」など最先端の日本語に対する解説が載せられ,「ABC略語表」「度量衡表」などだけを示した他の辞書には及ばない,体系化された日本語の辞典という評価ができる。
その改版であるが,新語が2000語追加され見出し総数は94000語となっている。難点は地名が市町村まで記されていない,アクセントや活用などの記号が分かりにくい点などがあるが,この体裁ではこれぐらいが限界なのかもしれない。
「編者のことば」が4月になっているので,その後新聞を毎日にぎわせている「IT革命」などの新語は間に合っていない。辞書業界の出版事情はよくわからないが,そろそろ小中辞典の改定時期のものが多くなっていると思われるので,これからが楽しみである。
※追記:ヨコ組みのポケット版辞書として定評のある「デイリーコンサイス国語辞典」(三省堂)も9月に第3版が出た。こちらもお勧め。
〔2000.10.1〕
<碁石茶の処方箋> 先日地方学会で碁石茶を紹介して,お茶の時間に試していただきました。珍しいとよろこばれる反面,ちょっと口に合わないという感想もありました。
碁石茶は,渋いお茶です。普通に煮出したりすると大変。市販されている麦茶の冷水用パックというのがありますが,あの要領で冷やして作るのがちょうどいい感じです。
まずガーゼでマイ茶袋を作って,碁石茶を一つか二つ入れる。2リットル程度のヤカンかボトルに水と茶袋を入れて一晩冷蔵庫で冷やす。これで十分です。煮出す必要はありません。分量は好みで。
乳酸発酵ですからクリームティー感覚でやってみるのもいいかもしれません。
今年は高知から1キロ買ってきたので今はこればかりで,やみつきになっています。久しぶりに四国へ行き,伝承者の皆さんや友人が元気で何よりでした。初心に戻るというか,とにかく最近勉強をしていないので刺激になりました。本当は鹿児島のことをもっと勉強しなければならないのですが,つくづく反省させられます・・・ (半島文化Vol.2おわり)
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〔2000.9.1〕
<巻頭言> 地域総合情報サイト「半島文化」を立ち上げました。その目的は,日本のあらゆる半島の歴史・民俗・地理を,筆者の見たままのすがたで,お届けしたいということです。
とは言うものの,半島文化研究所の実態は,日本民俗学会 井上賢一の個人調査レポートです。できるだけ新しい内容を鹿児島県薩摩半島から発信したいと思いますが,在野の研究家には限界があるかもしれません。
とりあえず今回は,すでに文章になっているものを掲載しました。小中学校の生徒さんや先生,公民館活動をされている方などの参考になればと思います。読者皆様のご批判をお待ちしています。(半島文化Vol.1おわり)