南さつまにおける春夏秋冬の習俗を、ビデオで見てきました。一般文化財と呼ばれるものの中にも、大切な要素を含む習俗があることに気付かれたかと思います。最後に、地域における文化財の再評価のためには、どのような視点が必要か、私の考えをお話したいと思います。
南さつま市では、合併以前の市・町で指定文化財の数が大きく違います。あるまちは指定文化財が4件でした。一方あるまちは四十数件が指定されていました。実に十倍の差です。
確かに、指定件数の多いまちには、貴重な文化財が多いともいえます。しかし、指定件数の少ないまちに、文化財が本当に少ないかというと、そうではないかもしれません。そうしたまちでは、指定していなくても、文化財行政の一環として無指定のいわゆる一般文化財にも、案内板・解説版を立てている場合もあります。また、指定がなくても、地域の人びとが大切に伝承してきた郷土芸能や習俗もあります。一概に指定の多い少ないでその地域の文化的要素が浅いとか奥深いとかということは、言えないということです。
ただし、史跡や有形文化財のように形のあるものは解説版を立てることも出来ますが、無形民俗文化財となるとなかなかそうもいきません。その地域にとっては”ありふれた”習俗なのかもしれません。「――太鼓踊りなんかどこでもあるよ。十五夜行事なんて日本中、一緒だよ。」と、小さなエリアで考えると、その習俗の特色を浮き彫りにすることがなかなか出来ないものです。そこが他の文化財とは違った無形民俗文化財の特徴と言えると思います。つまり、文化財の中では忘れられた存在になりやすいものということです。
そこで私たちが注意しなければならない点は、指定文化財の多い少ないではなく、列島の文化史の中で、その習俗がどのような意味を持っているのか考える必要があるということです。
実は、民俗事象には、市町村の境界はありません。例えば伊勢講行事にしてみれば、指定されている大浦だけでなく、南さつまの各地に伝承されています。その中でバライティーに富んだ内容となっているのです。また、十五夜行事で言えば、指定されている坊津だけでは解釈できない要素が他の地区の習俗の中に見え、そうした習俗との比較によって、坊津の十五夜行事も改めて浮き彫りに出来るのではないでしょうか。
ふるさと再発見のために、民俗文化財をトータルに見つめる眼を、私たち文化財保護審議委員は養っていかなければなりません。そんなことを考えながら、私はこれからも、このまちの歩いていこうと思います。