年中行事風土化の研究 - 伊勢講と十五夜行事の分布構造から民俗変容を考える |鹿児島の民俗 - 薩摩民俗HOME|
『鹿児島民具第12号』58-70頁所収 研究報告
●発行:鹿児島民具学会
●発行日:1996
日本民俗学会会員 井上賢一
風土―自然環境をヨコ糸に歴史的文化形成過程をタテ糸に見立て,その両者の交錯する地人の相関関係のおりなすもの。
これは,比較文化論,さらに地球レベルでの複眼的視野に立って展開された北見俊夫の風土概念である。北見はまた,風土を万華鏡に見立て,中に装備された三枚の平面鏡を自然,社会,文化に比定し,海島という万華鏡から「現代社会の抱える風土論的課題」に迫ろうとした。
民俗伝承を支えてきたむらの衰退・消失が避けられる中,近年はその変化を積極的に捉える研究が進められている。「民俗の変容」研究である。また,下野敏見は比較民俗研究の一視点として,民俗伝播における「風土化」現象に注目してきた。
本稿は,鹿児島県加世田市における二つの年中行事をとりあげ,変化著しい地域社会とその民俗とを,風土化及び変容という二側面から考察するものである。
事例1 加世田市加世田校区上鴻巣集落
事例2 加世田市内山田上地区
事例3 加世田市津貫中原集落
事例4 加世田市万世唐仁原集落
文化・社会的要素による風土化 自然的要素による風土化
〔民俗の風土化研究と変容研究の差異〕
@伝播していく民俗に視点をおくか,伝播してくる文化の風土性への影響に視点をおくかの差異。
A進出中の民俗事象に焦点をおくか,あるいは衰退中の民俗に焦点をおくかの差異。
B同一民俗による変化を対象とするか,異質文化との接触による変化を対象とするかの差異。
〔まとめ〕
@年中行事の伝播における変化を考える場合,異文化の流入によるむらに有った民俗の変化に視点をおいた民俗変容研究と,その伝播する側に視点をおいた民俗風土化の研究という二つの視点がある。
A風土化は自然的要因と文化・社会的要因を背景としているが,前者の場合領域自体に意味を持った分布構造を示し,後者はそれによらない場合が多いと思われる。ただし,複合している場合も考えられる。