井上賢一
知覧町教委「薩摩の水からくり」調査から十年が経過した。くしくも本年度の豊玉姫神社のからくりは、十年前と同じ「那須与一扇の的」。ようやく拝見できた吹上のカラクリを含め、南薩摩の水車からくりを再考してみたい。
南薩摩の水車からくりを定義すると、「①用水路にかかる②水車を動力として、③人形を動かす伝統芸能であり、④南薩摩地域に分布し、⑤夏祭り六月灯で披露されるもの」といえる。
①水車からくりに用いられる用水路は18世紀中旬にできたもの。②水車は下野敏見氏の指摘によれば、同地域では18世紀初旬から製鉄水車が存在していた。③人形は17世紀初頭の文献に、加世田では島津忠良により人形を作らせていたと記されており、また、18世紀中旬には知覧領主の佐多氏が鹿児島でアヤツリ人形を藩主に披露している。⑤六月灯は18世紀初頭。
さて、日置市吹上町のカラクリを調べるうち、吹上温泉以外にもう一箇所、元伝承地があることが分かった。伊作本町恵比寿の六月灯では、昭和43年まで水車からくりがあったという。
ここにきて、水車からくりが農村部の素朴な芸能という以上に、マチの祭礼の中で変容を遂げてきた可能性が出てきたわけである。加世田・知覧・吹上本町は市街地の夏祭りで、吹上温泉は温泉地の祭礼で発展したものといえる。
2006年9月例会 - 2006.9.2 かごしま県民交流センター