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例会研究発表要旨

2009年度鹿児島民具学会例会

■南日本のハン・屋号・垣根

下野敏見

 南日本のハンや屋号には変化があって、おもしろい。家や家族に属する例が多いけれども、種子島の「牧」の場合、馬の尻には焼判を押し、牛の耳には鋏で印をつけた。

 ハン・屋号の分布としてはトカラ以北に多いようである。しかし、例えば宮古島や石垣島の鍛冶屋のハンなど、鍬の歯の片隅ではあるが大きな屋号を刻み、印にしてある。西表島の祖納で見た山刀のハンは、ハンというよりも、人面みたいな紋様を山刀の鞘いちめんに掘り込んだもので、まるでパプアニューギニアの盾を見るような感じであった。私は、わが国のハンの底流にある古い文化脈を見たような感じがした。

 垣根には、石垣、柴垣、竹垣と多種類があり、石垣には、真石、サンゴ石など、いろんな石が用いられている。もちろん、南島にはサンゴの石垣が多く、しかも形態はいろいろあって、興味はつきない。奄美の石垣は、海から運んだサンゴ石を幾段にも積み重ねたものが多い。サンゴ石どうしが上下かみ合っているので台風には強い。けれども、夏にはそのすきまからハブが出入りする。与路島や喜界島のサンゴ石垣は、人の丈より高く、偉観を呈するものがある。それらのサンゴ道には、神人しか通らぬ神道(かみみち)もある。

 玄関二列に築かれた目隠しの垣を、沖縄ではヒンプンということはよく知られている。日本最西端の波照間島では、ナーフク(中石垣)といい、やはりサンゴ石の垣である。甑島の手打麓の小さな丸石積みの垣根と一つ葉(槙)の組み合わせも風情がある。

 南日本の地は、これらを眺めながら散策すると、魅力の別天地となる。

2010年1月例会 - 2010.1.9 鹿児島市中央公民館

下野敏見「屋号の民俗」

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