橋口尚武
2002年から本格化した種子島の鏡の調査の中で、円鏡はもとより柄鏡をも調査の対象としてきた。ここに発表するのは江戸時代初期までの和鏡と種子島にもたらされた外国製の鏡で、『種子島の鏡について(一)』と題して発表したものであった。
これらの中で、もっとも特徴的な鏡は小型海獣葡萄鏡である。基本的には七世紀後半から奈良時代前半の遣唐使の帰朝によって招来された鏡であるが、それを基に踏み返し技法で平城京やその周辺で鋳込まれた鏡で、度々の踏み返しで文様が劣化しているが、本邦南限の貴重な小型海獣葡萄鏡であり、奈良時代の種子島の唯一の歴史的遺物である。
他の鏡についてはその分布状況とその時代性について考察を加えている。なかでも後漢末の四鳥文鏡はわが国でも10面とない貴重品で、その母国の中国はもとより朝鮮半島でも出土例が少ない鏡であったから、その点でも大きな収穫であった。他の鏡の中では室町時代後半の素文鏡二面があるが、外国製の鏡で、16世紀に種子島に度々渡来漂着する明船が運んできたものであったろう。文字が鋳込まれた鏡もあり、そのすべてが吉祥句で飾られていた。いずれも明鏡である。
和鏡にはまず文字は鋳込まれず、文様そのものが祈りと信仰の対象になっていた。
2004年7月例会 - 2004.7.3 かごしま県民交流センター