橋口尚武
世界では、伊豆諸島とヒマラヤ山麓でテンナンショウからの澱粉採取の例が知られている。ここでは伊豆諸島の例を紹介して、これを通じてわが国における『アクの文化の系譜』に迫ってみたいというのが、今回の発表の骨子であった。アク抜きには、(一)水浸し技法によるアク抜き、(二)加熱することでアクを抜く技法、(三)灰の汁によるアク抜き技法の三種があって、ほぼその順に人類の生活に取り入れられてきたという歴史がある。
ヒガンバナの芋、アワビの根、葛根、テンナンショウの芋なども水晒しによってアクを抜くことができ、その回数はまちまちである。
テンナンショウは世界に四二種位が知られており、サトイモ科の植物でイガイガがもっとも強いといってよい。表皮を剥ぐにあたってはゴム手袋が必需品である。表皮を剥いだら、芯が伸びるあたりを抉り取り、後は臼で搗くことで細かく砕き、木綿袋に入れて澱粉をもみ出すのである。沈殿したらそのまま食用となる御蔵島の場合と数回の水晒しで澱粉となる他島の例の二種類がある。
どちらも餅にできるが、御蔵島だけは優れて美味で、他島の場合はアクが完璧に抜けていないので、飲み込むことで非常食とした。
いずれも完璧なまでの自然食品で、澱粉は一部贈答品として珍重されたこともあったが、今は主にジャガイモの澱粉を購入することで間に合わせている。取材で復元をお願いしたものであった。
それにしても伊豆諸島でのわが国唯一のテンナンショウからの澱粉採取は、植物民俗学の佐々木高明氏が注目した例であった。
2004年11月例会 - 2004.11.6 かごしま県民交流センター