下野敏見
鹿児島県薩摩川内市の中心部で行われる川内大綱引は三百数十メートルの縄綱を大勢の人が参加して練り上げ、夜は二千人ぐらいの人たちが参加し、紅白に分かれて引く。大がかりで集団的で勇ましい。この綱引は、慶長年間に韓国から伝わったともいうが確証はない。
南九州(熊本南部、宮崎南部を含む)の綱引は熊毛諸島をへて沖縄まで分布し、主に旧暦八月十五夜に引かれ、にぎやかである。綱引の前に、綱をトグロ巻きにしたり、蛇型にしたりして月に供えたり、蛇綱を持って集落内を清めたりして、蛇との関係が深い。中国で綱引を抜河といったり、韓国で潔河戯というのは、河を蛇に見たてている。月のみちかけと蛇の脱皮を連想せずにはおれない。
仲秋の名月のこの行事は、九州~沖縄に顕著で、中国、韓国、本州は正月十五夜に行う所が多い。自然暦の旧暦八月十五夜に行うのがアジアの古い形であろう。日本の南部のこの仲秋の綱引は、中国の古い文化、長江文明に伴うものであったのではないか。それも何波かに分かれ、さいごは朝鮮からも入ったのではなかろうか。
第一波は、四千年ほど前、江南から入り、第二波は二千二、三百年前、第三波は朝鮮の楽浪郡などから二千百年ぐらい前、最後はすでに記したように慶長頃、入った可能性がある。綱引は蛇(水霊)と関わり、稲作文化の流れであろう。
2006年3月例会 - 2006.3.4 かごしま県民交流センター