井上賢一
無形民俗文化財の分野は、市民が伝承してきた幅広い習俗を対象にしている。文化財指定されているものは、そのうち極一部。平成17年に合併した南さつま市では、旧市町の指定文化財をすべて、新しい市の文化財として引き継いだ。旧市町では、それぞれの基準、視点、史観から指定されてきた。マスコミでも紹介される祭りや郷土芸能で指定されていないものや、大変貴重だと思われるもので「一般文化財」のままのものも見られる(例えば、坊津のガラガラ船や金峰の鬼火焚き、笠沙の伊勢講行事、大浦の大草履を引く山の神祭り、加世田小湊の金屋子神講など)。
史跡や有形文化財のように形のあるものは解説版を立てることも出来るが、無形民俗文化財となるとなかなかそうもいかない。その地域にとっては「ありふれた」習俗だったのかもしれない。小さなエリアで考えると、その習俗の特色を浮き彫りにすることがなかなか出来ない。それが他の文化財とは違った無形民俗文化財の特徴と言えると思いる。つまり、文化財の指定という視点からは、忘れられた存在になりやすいということだ。
要は、指定文化財の多い少ないではなく、列島の文化史の中で、その習俗がどのような意味を持っているのか考える必要があるということ。実は、民俗事象には、市町村の境界はない。ふるさと再発見のためにも、民俗文化財をトータルに見つめる眼を養っていかなければならない。
2008年7月例会 - 2008.7.5鹿児島市中央公民館