小川秀直
一般的には、山の神は、山やそこに棲む生き物を支配する神霊と意識される。山の神は女の神であるとも、また一眼一脚の神であるという伝承も全国的に聞かれる。
よく正・五・九月に山の神祭りが行われ、小祠や大木、岩などを祭る例が見られる。春には山から里に下りてきて田の神になり、秋の収穫が終わると山に帰って山の神になるなど、山と里を行き来するとも考えられている。
また狩猟神としての山の神やウッガンとのかかわりなども見られる。
各地に山の神が祭られ、それぞれで祭りが行われている。三カ所の山の神祭りを簡単にみてみたい。
○長島町唐隈
長島町では各集落ごとに山の神祭りが行われている。唐隈の山の神祭りは集落内の十五社神社近くの山で行われる。十五社神社は、阿蘇十二社と熊野三社を祭る。長島は室町時代まで肥後国天草郡に属していたので、阿蘇大明神を祭る。祭場には女性は立ち入れないことになっており、出入りする途中にしめ縄が張ってある。女性が持ってきた供える料理などは、しめ縄を張っている所まで男が受け取りに行く。
祭りは旧暦十一月丑の日の早くきた方で行う。
○喜入町帖地
帖地には四つの組みがあって、山の神を祭る当番の家は籤で決める。当たった家は一年間、山の神と帖地神社の清掃を行う。直会のとき宿主は、神に供えた料理は箸を左手に持ち、片足で回って配る。
祭りは新暦一月十六日に行う。
○大浦町大木場
平家の落人伝説があって、大山祗神社の山の神祭りに大草履がでる。伝承によれば、源氏の追討軍がやって来たとき、峠に大草履を下げておいたところ、追討軍はこの村にはこんな大草履を履く巨人がいると驚いて引き返したという。元禄十一年の宇留島家文書に、大木場山神者金子造立也、とあるように乙名どんである金子氏の関与がある。
祭りは旧暦十一月最初の申の日に行う。
山の神は高山というより、人々の生活圏内にいる神であり、祭る立場によって性格が違ってくる。
複雑で多様な性格をもつ山の神を簡単に捉えることは難しい。それは古い神であるということでもあろう。
2009年9月例会 - 2009.9.5 鹿児島市中央公民館