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例会研究発表要旨

2010年度鹿児島民具学会例会

■海亀獲りの話

下野敏見

 鹿児島県の海は暖かく、砂浜も多い。毎年たくさんの海亀がやってくる。その種類は、青海亀と赤海亀が主で、奄美にはベッコウもいる。海亀と人のかかわりは、捕獲して食用にしたり、あるいは産卵の卵を盗んだりと、いろいろだ。また、民話にも登場し、猿蟹合戦ならぬ猿亀合戦を聞くこともある。猿亀合戦は、種子・屋久や南九州で聞くことができるが、こちらはフィリピン経由の南方文化に属するようだ。

 海亀獲りは、縄文の昔から行われたが、鹿児島県では、1988年、海亀保護条例を制定し、以来、捕獲禁止になっている。

 それ以前の捕獲方法や解体の仕方など、実は多彩で注目すべきものが多い。潜っていって後ろから抱きつきつかまえ、いっしょに浮上したりも、銛で突いて獲ったり、ワラ縄の綱で捕ったりというぐあいだ。種子島の茎永大崎、庄司浦、馬毛島などでは、カメのイュオ捕りといって海亀獲りがさかんであった。海岸部の人達は、亀肉をシャニン(月桃)の葉の苞に包み、農村部へ持って行き、米と交換した。亀の生血は珍重され、病いによく効くといった。

 鹿児島県では、亀卜の話は聞かない。海亀を絶対に食べないのは、池亀姓と上妻姓の人達だ。種子島では、石亀をクッというが、古語ではコウヅといった。それで、コウヅマ姓の人達は、海亀を食べないのである。亀は造形物としても、古来、いろいろ作られた。

 しかし、現在は、海亀の受難期である。海砂採取やテトラポットの設置による砂浜の減少、多数のビニール屑の漂流など、海亀は亡き悲しんでいる。縄文以来の海亀の捕獲法や食法、民話など、今のうちに古老や体験者から、くわしく聞いておく必要があるようだ。

2010年7月例会 - 2010.7.3 鹿児島市中央公民館

下野敏見(鹿児島市)「海亀獲りの話」
徳留秋輝(日置市)「俑から見た国際都市長安の民俗」

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