下野敏見
加計呂麻島には、アシャゲと称する神聖な建物が集落の広場にあって、ノロを中心とする女性神人(カミンチュ)達の祭場となっている。沖縄には、神アサギと称する床なしの軒の低い建物があって、やはり女性神人達の祭場となっている。伏屋式のこの素朴な沖縄の神アサギは、八重山の稲積みのシラを思わせる形であり、与論島などの円錐形屋根の人家や小屋の形にもつながる。トカラには、ションジャ(精進屋)といって、アシャゲに似た聖屋がある。
これらのアシャゲ・アサギ・ションジャに共通するもう一つの要点は、ここで神酒(みき)を造ることだ。そして、稲の祭りに関係が深いことである。
この不思議な聖なる建物を、なぜ、アシャゲとか神アサギというのだろうか。折口信夫や伊波普猷は、アシャゲや神アサギは、記紀神話に出てくる足一騰宮(あしひとつあがりのみや)に由来すると説いた。仲松弥秀は、アシは沖縄で間食を意味し、アシャゲは間食を上げる所つまり祭祀場であると述べた。
なお、沖縄本島南部では、民家にアシャギというのがついていて、客人をもてなす所だという。沖縄から奄美、トカラまでつづくこれらの聖屋は、ただ祭祀場としてばかりでなく、その根本にある意味が問われているのである。
奄美大島龍郷町秋名(あきな)のショッチョガマの行事では、山麓に片屋根の臨時小屋を造って、皆で揺り倒す。ショッチョガマは、稲積みのシラに由来し、ガマは穴の意だと思う。与論島のシニグ祭りに立てるシニグ旗は、白布を二本下げてあって、ちょうどショッチョガマの構えに似ている。アシャゲは、意味の深い聖屋であり、貴重な民俗文化であるといえるようだ。
2010年9月例会 - 2010.9.4 鹿児島市中央公民館