真邉 彩
九州地方の縄文時代中期末~後期前葉(約4,500年前)では、『編物底』という土器の底面に土器製作時の敷物として使われた編組製品の圧痕が多くみられる。これらは、有機物資料の出土例が少ない南九州において、当時の編組製品を考察する上での重要な間接資である。
編物底の研究は南九州においても1980年代から行われているが、大半は編組技術に注目した論考である。当時の道具としての機能や土器製作への使用状況などを把握するためには、編組技法に加え素材も重視した検討が必要である。近年の遺跡出土編組製品は、九州地方では木本植物やつる性植物を多用したことが分かっており、タケ類は弥生時代以降しか確認されていない。南九州は当時どのような素材を用いて編組製品を作っていたかを探るためには、編物底を高精度で復元することが重要である。そこで、圧痕にシリコーン・ゴムを流し込んで型取りする『レプリカ法』という手法を用い、編組製品の圧痕を復元した。
作製したレプリカを素材の断面形状・素材幅・素材厚・湾曲度・表面組織といった点から分類し、ヨコ材の屈曲度が高く軟質素材であること、木取りは割裂き材が多いこと、同一個体内に3種以上の素材加工が用いられるものは薩摩半島側に多いこと、などが分かっている。今後は、現生資料のサンプルなどから素材のより精密な同定をおこない、南九州における編組製品の様相をつかむための分析を進めたい。
2012年9月例会 - 2012.9.1 鹿児島市鴨池公民館