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例会研究発表要旨

2012年度鹿児島民具学会例会

■春祭りにおける道化の民具―カギヒキ・太郎太郎・お伊勢講―

井上賢一

 昨年、鹿屋市串良山宮神社の春祭り、いちき串木野市羽島崎神社の春祭りを拝見した。太郎太郎祭りの名称で親しまれているように、北薩では牛の面を被って「田打ち」(田遊び)が行われる。大隅では、車輪をつけた牛の模型を用いる。では、南薩はどうか。代わりものはないのか。有形民俗の視点から考えてみたい。

 南薩ではこの時期(2月11日)、御伊勢講が盛んにおこなわれる。御伊勢講で披露される疱瘡踊りの第一部「馬方踊り」は芝居仕立て。疱瘡除けを目的に、旦那が馬子の引く馬に乗って伊勢参詣する様子を、滑稽に上演する。この馬は長さ70センチほどの模型の馬。南薩の馬方踊りの模型は馬だが、大隅の田打ちの模型は牛。大きさはほぼ同じだ。また北薩では、牛の仮面をつけるが、御伊勢講のご神幸行列でも、キツネなどの仮面を被る。

 田打ちの牛の模型や面は、神事・種もみ撒きといった厳粛な儀礼の中間に位置し、人々に笑いを与えて、春祭り全体を活性化させ、ひいては春祭りの目的である予祝儀礼を盛り上げる。馬方踊りの馬子も道化役で、田打ちの太郎次郎と同じく、疱瘡除けを祈願する厳粛なお伊勢参りの再現を活性化する。仮面を付けることは、誰だかわからない、人ではない存在、あるいは神のお伴を表現しているともいえる。

 さまざまな道化の民具や仕掛けは、豊作を願う節変わりの春祭りを、さらに活性化させる役割を担っていると考えられる。

2013年3月例会 - 2013.3.2 かごしま県民交流センター

井上賢一「春祭りにおける道化の民具」

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