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例会研究発表要旨

2023年度鹿児島民具学会例会

■南薩摩の水車カラクリ

井上賢一

 南薩摩の水車カラクリを、次のように定義しておく。①用水路に係る②水車を動力として、③人形を動かす伝統芸能であり、④南薩摩地域に分布し、⑤夏祭り六月灯で披露されるもの。

 口頭発表では、知覧・加世田・吹上の水車カラクリについて、制作過程や機構の解説を含めて、記録動画を照会した。映像には、水車カラクリ継承に尽力された知覧の冨永又男さんや加世田の緒方竹春さんの元気な姿も映る。

 カラクリの【④南薩摩地域の分布】は、万之瀬川流域と吹上町の、合わせて14か所が確認されている(水車を利用しない手回しアヤツリを含む)。さらに、南さつま市加世田武田の老神神社で、水車を利用した回り灯籠が近年まで行われていた。

 成立過程を見てみる。水車カラクリに利用される【①用水路】は近世の新田開発に伴い整備されたもので、1700年代後半。【②水車】は製鉄・製糖用が1700年代中頃から(骨粉・精米用は明治期)。【③人形】では加世田で盆に制作させたという近世初期の『日新菩薩記』の記事や、知覧領主がアヤツリを上演したという記事が1700年代初めにみられる。夏祭り【⑤六月灯】は、鹿児島城下新照院観音堂で二代藩主島津光久のころ(1638~1687)始まった。水車カラクリに必須の用水路整備に着目すると、18世紀中旬以降に成立したものと考えられる。

 日本の夏祭りに共通の背景から誕生し、祭りから祭礼への変容の中で、鹿児島の風化(特に六月灯)に触れて洗練されながら、発展を遂げてきた民俗芸能と言える。

2023年7月例会 - 2023.7.9 ミュージアム知覧

井上賢一「南薩摩の水車カラクリ」

鹿児島民具学会の歩みと活動2023年度


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