下野敏見
奄美の民具は特色があるものが多い。被り笠の中で、ジミハサ(丸藺笠)も注目すべきで、喜界島や奄美大島で作られる。男性用と女性用があるが、いずれも斜線編みになって、タテナガの細い三角文を次々に作り出していて美しく、躍動性がある。
磯草履をワラクジ、普通の草履をワラサバという。ワラクジは、簡単な作り方であるけれども、でき上がったものは底にワラがそのままついていて、サンゴ礁の瀬を踏んでも足が痛くないようにできている。本土でも磯草履は作ったが、喜界島などで見るワラクジは、ヒゲ(ワラ)の付いた草履を足首にくくりつけてはくもので、豪快な感じである。
喜界島や沖永良部島の田芋掘り棒も注目される。田んぼに栽培する田芋の根っこのヒゲを、この棒で掘りくずし、そして手で葉柄をつかんで引くと、田芋ごとすっぽり抜ける。田芋掘り棒は、ただの尖った棒であるが、田芋掘りに欠かせない道具だ。
石敢當は、奄美大島の各地の屋敷の道路側の隅に見られる。珍しいのは、「石敢當」と書いたその上か下に、タテ四本、ヨコ五本の井形の紋様を彫り込んであることだ。これは、わが国の陰陽道(おんみょうどう)の呪符として、ドーマンという。平安時代に、芦屋道満という人が考えたという伝説がある。この紋様を、別名、九字文(くじもん)ともいう。九字文は、指を立ててタテに四本の呪文を切り、次いでヨコに五本切って、悪魔を祓うのである。
この珍しい紋様が石敢當にあるのは、県内でも喜界島と徳之島だけのようだ。これはヤマトの修験道の影響ではなかろうか。
2011年9月例会 - 2011.9.3 鹿児島市中央公民館