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例会研究発表要旨

2012年度鹿児島民具学会例会

■太鼓踊りのバチ

井上賢一

 鹿児島の太鼓踊りを初めて見たのは、1991年、加世田小湊のものだった。「厳かに鉦の音ばかりが響いて、太鼓の音は聞こえないなあ」と感じた。小湊の太鼓のバチは藺草製。今回は、薩摩半島におけるバチの種類とその分布を検討してみたい。

 日置市では、ドラムスティック状の木製のバチを用いている(徳重大バラ太鼓踊り、大田太鼓踊り、伊作太鼓踊り、尾下太鼓踊りなど)。北薩では、この形状が多いようだ。万之瀬川を挟み、南さつま市加世田益山と、南九州市勝目地区(上山田・中山田・下山田)では、ワラ製の縄状のバチになる。南さつま市加世田内山田・津貫・小湊及び大浦では、藺草製ナス型のバチを用いる。枕崎市鹿篭、南さつま市坊津町久志では、木製すりこぎ型となる。久志のものは、小さくナス型に近いともいえる。藺草製ナス型は三島村黒島にも、分布圏が続く。

 これらの分布圏とは別に、すりこぎ型は、南さつま市加世田の稚児踊り、いちき串木野市の市来七夕踊りでも見られる。日置市の伊作田踊りのものは同じすりこぎ型でも藁製だ。

 木製のバチでは太鼓の音がよく響き、藁製・藺草製になるにつれ鉦の音のほうが強調される。藁製・藺草製地区では、太鼓の音を聞かせるというより、太鼓を抱いた「踊り」を見せている。

 鹿児島の太鼓踊りは、①念仏踊り(先祖供養)の要素と、②虫送り(豊作祈願)の要素からなっていることが知られている。バチを比較することにより、その響きの違いから、背景を読み解くことができないだろうか。

2012年7月例会 - 2012.7.7 鹿児島市役所みなみ大通り別館

井上賢一「太鼓踊りのバチ」
徳留秋輝「中国古代の祭祀の祭具」
濱田甫「姶良市加治木町の史跡の竹と竹製民具」

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