大浦町の疱瘡踊り
「大浦町の疱瘡踊り」基礎データ
大浦町の疱瘡踊りは、御伊勢講で披露される郷土芸能です。「馬方踊り」と「シベ踊り(小唄踊り)」の二部構成で、馬方踊りは伊勢神宮参拝の道中をユーモラスに描いた芝居です。この馬方踊りに続き、榊やボンテンを振って疱瘡退散を願う疱瘡踊りがあります。
- 場所:鹿児島県南さつま市大浦町 → 地図
永田公民館
平原公民館(ひらばる)
有木公民館(ありのき) - 今は見られない。 - 日時:毎年2月11日 永田は午後3時から 平原は午後1時から
- 文化財指定:国選択無形民俗文化財・鹿児島県指定無形民俗文化財
- メモ:かつて御伊勢講の日には、大浦町内の各集落で、疱瘡踊りと棒踊りが踊られていましたが、2024年は棒踊りだけになりました。疱瘡踊りが見られるのは、大浦町榊から伝わった、加世田小湊中央集落の「茶屋ん嬶」のみになっています。
「大浦町の疱瘡踊り」写真と解説
1.南さつま市における御伊勢講の構造
南さつま市内には、各地に御伊勢講行事が残る。特に市西部では盛んで、大浦町には疱瘡踊りが伝承されている。
伊勢講は、その先1年間の祭祀者(宿・会所・お旅所)を決める「宿決め習俗」から始まり、新しい宿までの「宿移り習俗」、新しい宿での「宿迎え習俗」と続く。
笠沙町では宿移り(御神幸行列)に重点が置かれ、大浦町では宿迎え(疱瘡踊り・棒踊り)が盛ん。加世田の御伊勢講は大浦町から伝播した可能性がある(小湊の疱瘡踊り・上津貫の宿移り習俗など)。また、金峰町・坊津町でも伊勢講行事・疱瘡踊りが伝承されている。
2.「大浦町の疱瘡踊り」の構造
大浦町の伊勢講で奉納される郷土芸能には「棒踊り」と「疱瘡踊り」がある。疱瘡踊りは馬方踊りと小唄踊り(シベ踊り)の2部構成。馬方踊りは、伊勢参詣の道中の模様を ユーモラスに表現した劇。この馬方踊りに続き、榊やボンテンを手に持ち、祓い清めるしぐさをするシベ踊りが踊られる。馬方踊りは、往路→神宮参詣→帰路の3場面からなり、旦那と馬方・小姓の問答や小唄が楽しい。伊勢の神は賑やかなこと・荒々しいことを好む神とも伝えられることから、伊勢講ではオイセサンを喜ばせ、集落安泰・厄病退散を願うさまざまな習俗が伝承されている。
3.「大浦町の疱瘡踊り」の現状
集落名 | 2005年の御伊勢講行事 | 2011年の状況 |
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榊 (さかき) |
09:00 疱瘡踊り(榊研修館) 13:00 棒踊り(榊研修館~集落内8箇所) |
疱瘡踊り中止(棒踊りは伝承) |
福元 (ふくもと) |
13:00 棒踊り(福元公民館) | 同左 |
平原 (ひらばる) |
13:00 棒踊り(平原公民館) 13:30 疱瘡踊り(同公民館) |
同左 |
永田 (ながた) |
15:00 棒踊り(永田公民館) 15:30 疱瘡踊り(同公民館) |
同左 |
有木 (ありのき) |
13:00 疱瘡踊り(有木公民館) | 疱瘡踊り中止(直会のみ) |
上之門 (うえんかど) |
14:00 棒踊り(上之門公民館) 14:30 疱瘡踊り(同公民館) |
疱瘡踊り中止(棒踊りは伝承) |
大木場 (おおこば) |
15:00 オンケ(大木場公民館~集落内) | 同左 |
2011年現在は、2集落のみで疱瘡踊りが見られる。このほかにも、かつては各集落に疱瘡踊りがあった。現存している永田の疱瘡踊りには、馬子が馬をかたどった模型車を引く。また、平原では、棒踊り・疱瘡踊りに先立ち、榊で前の人を祓うしぐさをする習俗が見られる。
なお、棒踊りは本来オデバイ(花見)で披露されていたものが、春祭りの一つである御伊勢講に移行したとも考えられ、直接伊勢講との関連はない。しかし、女性が踊る優雅な疱瘡踊り / 男性が踊る勇壮な棒踊り という対比は、大浦町の伊勢講行事の特長ともなっている。
3.「大浦町の疱瘡踊り」のまとめ・特長
- 鹿児島県内において、南さつま市、特に大浦町は伊勢講行事の盛んな地域である。
- 伊勢講行事は、「宿決め」→「宿移り」→「宿迎え」から構成され、大浦町では宿迎え習俗が盛んである。
- 大浦町の宿迎習俗には、女性が踊る優雅な「疱瘡踊り」と男性が踊る勇壮な「棒踊り」が、対比をなしている。
- 大浦町の疱瘡踊りは、「馬方踊り(演劇)」と「小唄踊り(シベ踊り)」の二部で構成され、そのつながりがよくわかる。
- 大浦町の疱瘡踊りは、伊勢神の力にあやかり、疱瘡(天然痘)の退散を願う郷土芸能である。
「大浦町の疱瘡踊り」記録映像
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〔実地調査〕
2005年2月11日大浦町有木公民館
2008年・2018年・2019年2月11日大浦町平原公民館
2009年2月11日大浦町永田公民館
〔参考文献〕
松原武実著『南九州歌謡の研究』(1993年、第一書房)
小野重朗著「大浦町疱瘡踊り」(『南日本の民俗文化4祭りと芸能』所収、1993年、第一書房)
小野重朗著「疱瘡踊り考」(同上所収)
小野重朗著「伊勢神を叩く」(同上所収)