かせだうち
「かせだうち」基礎データ
かせだうちとは、七福神などに扮した人々が、新築のうちをお祝いやってくる小正月の行事です。名称は「稼いだ家」にちなむとも言われますが、はっきりしません。ナマハゲ・カセドリ・ホトホト・カユツリなどと同じ「小正月の訪問者」行事の一つです。
- 場所:鹿児島県南九州市知覧町郡・永里ほか → 地図
- 日時:1月14日夕方から(不定期)
- 文化財指定:なし(一般文化財・無形民俗文化財)
- メモ:その地区内における新築の家などのお祝いなので、毎年実施されるわけではありません。実施の有無は、教育委員会などにご確認ください。また、鹿児島県内には知覧以外にも行事が残っています。
「かせだうち」写真と解説
1.知覧町郡のかせだうち
1996年の小正月、知覧町中郡では2軒の新築の家に、かせだうちが訪れた。地域の青年(今は壮年)が七福神などに扮した。かせだうちは何組かある。
この日の1組目は4人組。鬼のお面をつけ「福の神」の木札を持った神、ミッキーマウスのお面をつけた神、ひょっとこのお面をつけた神、そしてマドロス姿の神。カセットテープデッキの曲に合わせて踊り、家主を祝福する。家主は訪れ神を歓待する。立派な塗りものの平膳には、オタマジャクシの入った吸い物、おかずは調理をしていない鶏のトサカや足、マツボックリ、ワサビをべったり塗った魚のお刺身など。箸は笹がついたままの青竹。神に扮しているので一言もしゃべらずに、家主の酒を有難く頂く。その後、神々は、金塗りの大黒像、財産目録、半紙で作ったお札を家主に贈呈する。財産目録は、その家の繁栄が末永く続くよう「割り切れない数字」の3を用いて、「家屋 三億三千三百三十三棟…」などと書かれている。それが終わると神々は仮面をとって人間に戻り、改めて家主を祝福し、家主も酒を進める。
2組目はエビスのお面を付けた神、金髪のかつらをかぶった神、女性のお面を付けた神の3人組。1組目と同様に祝福し、家主の接待を受けた。仮面・仮装はいわゆる仮装行列風で、プラスチック製の楽しいお面や、演芸大会で用いるようカツラを着けている。
2.かせだうちの意義
かせだうちは、東北のナマハゲやカセドリ、中国のホトホト、四国のカユツリなどと同様の「小正月の訪問者」行事。小正月の夜に新築の家を、七福神に仮装した青年たちが訪れて祝福し、家主の歓待を受ける習俗。名称の由来は「よく稼いだうち」とも、「笠取る」からきているとも、考えられているが、定かでない。南九州市の西隣に南さつま市加世田(かせだ)があるが、その地名との関連はない。
現在は箕笠姿はみられないが、下野敏見氏によればナマハゲや甑島のトシドンと同じく、かせだうちも箕笠が本来の姿であろうとしている。また下野氏は、小正月の来訪神が、恐ろしい形相である一方祝福をして回る点を、善悪未分化のカミの姿が表されていると指摘している。そして、こうした来訪神は、夏作農耕のヤマトでは冬正月に、一方冬作農耕の琉球では夏正月に現れ、いずれも節の転換者の役割を果たしているとしている。〔下野1986〕
「鹿児島の小正月行事」記録映像・記録画像
〔実地調査〕
1996年1月14日午後6時から知覧町郡地区
〔参考文献〕
下野敏見著「ナマハゲの謎」(『ヤマト文化と琉球文化―南の島々の生活行事に映った日本文化の古層地図』9~70頁、1986年、PHP研究所)