ダセチッ(ハラメウチ)
「ダセチッ(ハラメウチ)」基礎データ
ダセチッは、新婚夫婦を祝福する小正月行事「ハラメウチ」習俗の一つです。花嫁の来た家を子供たちが訪れ、ダセ棒(出せ棒)で庭を突きながら、子宝に恵まれるよう唱え言を歌います。
- 場所:鹿児島県指宿市山川利永 → 地図
- 日時:毎年1月14日 午後から夕方、利永集落センター(公民館)に集合し、利永区の新婚家庭を回る。
- 文化財指定:なし(一般文化財・無形民俗)
- メモ:集合時刻は、平日の場合は学校が終わってから、学校がない日の場合は早めに集まります。土曜日だった2017年は、午後2時に公民館に集合し夕方まで回った。
「ダセチッ(ハラメウチ)」写真と解説
1.利永のダセチッ(ハラメウチ)の概要
(1) 名称
小正月に子供たちが新婚家庭を祝福して回るハラメウチ習俗の一つで、利永では「ダセチッ」と呼ばれる。出せ突きの転訛と思われる。子供たちが棒を突きながら出せ出せと唱えることから、単に「ダセ」、あるいは祝い棒の名称から行事名を「ダセンボー(出せ棒)」と呼ぶこともある。
(2) 実施場所
現在は利永公民館(利永集落センター)に集合し、利永区の新婚家庭を回る(2017年は8軒)。回るコースは特に決まっていない。
かつては、集落ごとに子供組のカシラ(頭)が決めた場所に集まって、各新婚家庭を回っていた。(利永区は、かつて7集落に分かれていた。今は集落再編で6集落)。
回る家は昨年の新婚家庭だが、実家が利永で外に出ている家庭にも、実家を訪れて祝福する。
(3) 実施時期
日にちは、昔から1月14日で、現在も土日に関係なく、毎年この日に実施している。学校がある日は、下校後、日没頃から回っている。かつては日没後に回っていた。実見した2017年は、14日が土曜日に当たったので、午後2時に公民館に集合して、夕方まで回った。
(4) 伝承組織
現在は、利永区全体の子ども会行事で、PTAや保護者も協力して、実施している。2017年の参加者は、男子小学生12名・女子小学生7名・幼児6名。
かつては各集落ごとに、男の子だけで回っていた。小学校6年生が子どものカシラ(そこから上は二才 - 青年 - )。今は子供が少なくなったので、校区全体の行事として、女の子や幼児も参加するようになったという。
(5) 由来伝承
「子だくさんになりますようにという意味」と伝えられている。
2.利永のダセチッ(ハラメウチ)の実態
(1) ダセ棒(祝い棒)づくり
子供が持つ祝い棒を、「ダセ棒」と呼ぶ。葉っぱが落ちる木が良いといい、タラ、センダン、カシなどを削って、年明けか年末に親が作ってやった。ダセチッまで、床の間に飾っておいたりもした。
実測したもの三本は、長さ53cm、70cm、82cm。直径は5cm程度の円柱棒状。他に幼児が持つ長さ40cmほどのものもあった。大きさは「引きずらない程度で、腰から足元までの長さにしている」という。太さは「子どもが握りやすい太さ」だという。
ダセ棒に描く模様は自分のものか区別できるように描いた目印で、特に決まっていないという(実見の範囲内では左巻きの模様は確認できなかった。亀甲の帯を上部と下部の二か所に描いたものなど。マジックで描かれている)。この模様と、名前や生年月日を書いている。ダセ棒は男根に見立てているともいう。
ダセ棒は、ダセチッが終わると、しまっておく。飾っておく家もあった。翌年も使うこともあれば、新しいものを作ってもらうこともあったという。
(2) ダセチッの実施内容
実見した2017年は、公民館に集まると、まず仕上げの練習があった。その後、公民館を出発し、一列に並んで唱え言を歌いながら、新婚家庭に向かう。
新婚の家に着くと、子供たちは庭に輪になり、「ダーセン、ダーセン(出せ出せ)・・・」と合唱しながら、ダセ棒で庭を突く。6回ほど繰り返す。突き方は昔から同様で、場所も新婚さんの家の庭だけで突き、垣根をたたいたり、辻々で叩いたりすることはなかった。
終わると、祝福された新婚さんから菓子がふるまわれる。子どもたちは持参した袋に入れて持ち帰る。何軒か回っていくうちに、袋はいっぱいになる。今は、指宿市指定の黄色いゴミ袋を使う。
かつては、迎える家では、ヨッグンのゴッソ(四つ組の御馳走)といって、煮豆・煮しめ・フワフワ・ソバキイが出るところもあったという。フワフワは豆腐などの油炒め、ソバキイは蕎麦のこと。
また昔は、子供組のカシラだけ家に上げてもらい、御馳走をもらった(お神酒の焼酎をほんの少しもらったのも好い思い出だという)。下の子供たちは、庭でお菓子をもらった。現在は全員、庭でお菓子をもらう。
各世帯での祝福が終わると公民館に戻る。
(3) ダセチッの唱え言
ダセチッでは、次の唱え言を歌う。伝承者によれば集落ごとでしていたころも、同じように唱えていたと思われるとのこと。
「ダーセン、ケボボ、
ケボボガ、ヅギナッタ、
シータラベガ、ボーロボロー
ハナヨメゾハ、イッド、ニッド、ハッズンナ」
利永では現在、次のように解されている。「出せだせ、いっぱい満ちた、下童がわんさわんさ、花嫁女は一度二度出てくるな」。
2.利永のダセチッ(ハラメウチ)の特徴と意義
利永のダセチッは、小正月の夕方行われるハラメウチ習俗の一つで、構造は次のようになっている。
①子供たちが前年の新婚家庭を訪問し、
②「出せ出せ」と唱えながらダセ棒で庭を突いて祝福し、
③新婚家庭から菓子などをふるまわれる。
小野重朗は、南九州におけるハラメウチ系習俗を、カセダウチ系習俗とともに、小正月の訪問神事ととらえている〔小野1996 83頁〕。そして、この二つを対比して、次のように指摘している。「カセダウチは青年・大人が変装し、家々に贈るものをもって訪れるのに対して、ハラメウチは子供たちが、変装しないで来訪し持つものは祝い棒で、これで叩くことに重点がある。」〔同81-82頁〕
利永のダセチッでは、嫁を叩くことはせず、庭を突いて回る。「出せだせ」の意味は、振舞いの菓子を出せともとらえられるが、新婚のお嫁さんを呼び出そうと唱えているようにも思える。
小野重朗は、利永のように嫁叩きをせず、土地を掘る習俗がみられる点について分布構造から検討し、ハラメウチの目的が「古くは土地を突き掘る」もので、「一年の農耕の始まりの儀礼」ととらえている〔同87頁〕。そして、その意味が忘れられるにつれ、「いわば副次的であった嫁女を孕ます行事が表面に押し出された」とし、南九州の行事や講で花嫁の着た家を宿とする事例がしばしばみられることから、「来訪神を歓待するのが花嫁の任務」であり、「ヨメジョダッシャイ、嫁ジョヲ出ッシャイ」もその一例と述べる〔同88頁〕。また、鹿児島市谷山などで見られた小正月の垣打ち習俗も、土を突き開いて農耕が始まるように、垣を打ち破って家々の新年の生活の始まじまりを示すものとしている〔同89頁〕。そして、「ハラメウチは小正月の来訪神が部落を訪れて花嫁の歓待をうけ、閉ざし固められた土を掘り棒的な祝い棒で打ち起こし、農耕を始めるための儀礼」とまとめている〔同89頁〕。
ダセチッの唱え言は、伝えられている解釈よりもより性的な内容と持っているようにも思われる。一方、小野の考える農耕儀礼としての位置づけは、この事例だけからは明らかにできない。
しかしながら、嫁を叩くことなく、庭を掘り返すという習俗の実態から、小正月の来訪神が集落を訪れ、花嫁の歓待を受けて、新年の始まりを示すという要素を、今に伝えている貴重な習俗として意義付けることができる。
「鹿児島の小正月行事」記録映像・記録画像
〔実地調査〕
2017年1月14日
〔参考文献〕
小野重朗 1996 『南日本の民俗文化Ⅸ 増補農耕儀礼の研究』第一書房
〔初出〕
このページは、『鹿児島県の祭り・行事 - かごしまの祭り・行事調査報告書』(2018年、鹿児島県教育庁文化財課編・鹿児島県教育委員会発行)57~60頁所収の拙文「行事詳細調査報告4 ダセチッ(出せ突き)」を改稿し、ビジュアル版にしたものです。